ついてない男

2019年6月23日21:15 長野県大桑村
道の駅で一人の男が何かを待っている。
彼はなぜそんな時間にそんなところにいるのだろうか。

そもそもの発端は3年前に遡る。
2016年、彼が大学一年生だった時の話である。
彼は自信過剰で不真面目な人間であった。
多少サボっても試験さえなんとかすれば授業の単位はもらえるものだと思っていた。
実際ほとんどの授業の単位は取得できたが、ただ一つ、英語だけは単位を落としてしまった。
これがすべての元凶である。

おとなしく再履修でもすれば良かった話なのだが、彼は面倒くさがりな上に妙なところでプライドの高い人間だった。
その英語の授業はTOEICで所定の点数を取れば単位が認定されるものだったので、彼は面倒な再履修を拒み、TOEICでの一発逆転に賭けることにした。

彼はその後何度かTOEICを受験した。
しかし、惜しいところまでは行くものの単位認定の基準を超えられないまま時が過ぎていった。

気づけば彼は四年生になっていた。
さすがにそろそろ単位を回収しなければまずい。
これでTOEICは最後だ、これで失敗したら負けを認めて再履修しよう、と心に決めて6月開催の試験に申し込んだ。
この回は彼の住む長野県での開催はなかったので、仕方なく隣の岐阜県の会場で受験することにした。

そして迎えた試験日が、6月23日である。
予想以上にテストの手応えが良かったので、彼は上機嫌だった。
鼻歌なんかを歌いながら国道19号を走り、家まであと1時間ちょっとというところまで来た。
さて、ちょっと休憩でもしようかな、なんて言いながら道の駅に入ろうとしたところで、車に異変が起こった。

メーターの警告灯が点灯し、エンジンの調子がおかしくなったのである。
慌てて道の駅の駐車場に停めると、エンジンが完全にかからなくなってしまった。

このままでは帰れない。仕方ないので彼はJAFに救援を頼んだ。
だが、現場はど田舎である。到着までに50分ほどかかると言われ、これも仕方ないので待つことにした。
ここでようやく冒頭の場面に至る。

結局JAFが到着したのが22時過ぎ。
バッテリーをちょっといじってもらい、エンジンはかかるようになった。
これでようやく帰れる、と思っていたが、しばらく様子を見ていた整備士が異変に気付いた。
どうも発電機の調子がおかしく、バッテリーの充電が追いつかないらしい。このまま無理して走っても途中でまた止まる可能性が非常に高いという。

愛車はレッカーで運ばれ、岐阜との県境にある工場で修理することになった。
代車を渡され、再出発。この時点で既に23時を回っていた。

本来なら22時には帰宅できていたはずなのに、なんて思いながら慣れない普通車に乗り込むと、タイミング悪く雨が降り出した。
彼は自分がついてない男のように思えて、悲しくなった。
テスト直後に温泉に入りながら上機嫌だった自分が嘘のようである。

降りしきる雨と疲労の中、慣れない車を運転してなんとか家にたどり着いた時には時計の針は1時を指していた。
疲れ果てたのでそのまま車で寝ようとすると、何かの安全装置が反応してけたたましい警告音が鳴り響いた。
車中泊すら許されないのか、と思いつつ雨の中家まで歩き、眠りについた。

目が覚めると、1限の授業は既に終わっていた。かなり疲れていたので無理もないが、これで5回目の欠席である。
体調不良などに備えて温存しておいた最後の1回を使ってしまった。

今の気分は最悪である。
自分が本当についていない人間のように思えてならない。

しかし、こうして書き出してみるとこの状況に至ったのには自分にも少なからず責任があるのではないかと気づいた。
余計な意地を張らずにおとなしく再履修していれば岐阜なんかに行くこともなかったし、岐阜に行かなければこのタイミングで車が故障することも無かった。

教訓。問題が生じたら早いうちに手を打つべきだ。ギリギリでなんとかしようとすると、思わぬところで別の問題が起こってしまうものである。