2023年個人的年間ベストソング10曲

2023年もあと少しとなりました。色々と今年を振り返る時期ですが、当記事では2023年にリリースされた楽曲の中から、特に良かったものを10位から1位までのカウントダウン形式で紹介します。

 

10. Now And Then/The Beatles

10位に選出したのは、「ビートルズ最後の新曲」と銘打ってリリースされたこちらの楽曲。

ジョン・レノンが生前残したデモテープをテクノロジーによって復活させたというこの曲、派手さはないものの美しいメロディーラインに聴き入ってしまいます。

前述のように既にジョンが40年以上前に作っていた曲ではありますが、歌詞や曲調も解散から半世紀を経て発表された「最後の新曲」にふさわしい最高の演出となっています。

生存メンバーの現在と過去のビートルズが交錯するミュージックビデオも併せて楽しみたい。

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9. 春の修羅 feat. 塩塚モエカ/奇妙礼太郎

奇妙礼太郎が羊文学のボーカル塩塚モエカを迎えたデュエット曲。

アコースティックギターの軽やかなトラックの上で展開される歌声の調和と独特の詩世界に魅了され、何度もリピートした1曲です。

一見意外なコラボにも思えますが、極上のハーモニーに仕上がっています。

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8. US/Homecomings 

8位は4月リリースのアルバム"New Neighbors"から選出。

おそらくこれまで無かったかなりアップテンポな曲ですが、Homecomingsというバンドの魅力を新たな形で届けてくれています。

間奏のモノローグで一度クールダウンしてから一気に盛り上がる大サビも最高。

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7. SENA/Haruy

ラジオから流れてきて思わず耳を奪われた、この夏のヘビーローテーションです。

どこかノスタルジックな歌声とシンセサイザーのリフが最高に心地よい。

ベースも効いていて聴けば聴くほどハマってゆく中毒性の高い1曲です。

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6. Ring of Past/Men I Trust

6位はカナダのインディーポップバンドのシングルです。こちらもシンセサイザーが幻想的で中毒性の高い1曲。

タイトなリズムセクション+浮遊感のあるボーカル鍵盤の組み合わせが気持ち良くないわけがない。

まさにドリームポップのお手本のような楽曲となっています。

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5. Daydream/Being Dead

7月リリースのファーストアルバム"When Horses Would Run"から。

テンポの速いイントロから歌い出しで遅くなるという少し変わった展開ですが、全体的に荒削りな雰囲気も合わさって非常に耳に残る楽曲です。

バンド名もインパクト大、今後も注目です。

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4. the way things go/beabadoobee

4位にはbeabadoobeeを選出。

元々はギター色の強い曲が多かった彼女ですが、今年はこの曲や3月にリリースした"Glue Song"といった小品を立て続けにリリースし新たな魅力を発信しています。

抱きしめたくなるような儚さのある曲調が心に刺さる逸品、個人的にはこちらの方が好みです。

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3. Not Strong Enough/Boygenius 

年間ベストアルバムにはBoygeniusの"the record"を挙げたい。その中からベストソングには先行シングルでもあったこの曲を選びました。

3人のインディー系女性SSWが集まったユニットですが、それぞれの魅力が発揮されたアップテンポなナンバーは非常に耳障りが良く何度でも聴きたくなります。

曲に合わせてメンバー3人が遊んでいる楽しそうなビデオも必見です。

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2. 遠い朝/優河

年間ベストソング2位はシンガーソングライター優河の楽曲。

彼女の特徴的な歌声と調和し包み込む、奥行きのある音の重なりが非常に心地良く、リリース時から何度も聴いている大好きな曲。

繰り返し聴き込むほどに味わいが増す、まさに絶品な1曲です。

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1. 灯火管制の夜/Laura day romance

2023年間ベストソングは、Laura day romanceの"灯火管制の夜"です。1月リリースの"Works.ep"に収録。

淡々と、しかし着実に上向きに展開する曲調は間奏のギターソロを挟んでサビ後の3:00「灯火管制の夜に 溢れる話がしたいよ」で一気に開放され、「外からの光など別になくても」で綺麗に着地して終わる。

1年を通して何度も繰り返し聴いた、まさに「今年の1曲」です。

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2022年個人的年間ベストソング10曲

久々にブログの存在を思い出しました。

今回は2022年に聴いた楽曲の中で私が特に良いと感じた楽曲を10曲紹介します。

10位から1位までのカウントダウン形式です。

 

10. Clean/Pale Waves

10位に選出したのはマンチェスターのバンドPale Wavesの1曲です。

今年リリースされた3枚目のアルバム"Unwanted"からのシングルで、サビのメロディをそのまま使ったイントロが印象的。

こういうパワーポップ的な曲調は大好物です。

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9. OOPARTS/羊文学

羊文学の3rdアルバム"OUR HOPE"より。

シンセサイザーを取り入れた意欲作で、バンドにとって転換点とも言える曲になりそうです。

アルバムの終盤でこの曲を聴く時の高揚感が素晴らしい。

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8. Talk/beabadoobee

2ndアルバム"Beatopia"から先行シングルとして発表された1曲。

ドラムメインのイントロからボーカルとベースが入る瞬間が最高に気持ち良い。

アルバムの中でもかなりロックな曲調で非常に良いアクセントになっています。

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7.  little dancer | リトルダンサー/laura day romance

今年のベストアルバムにはこのバンドの"roman candles | 憧憬蝋燭"を挙げたい。

その中から1曲選出したのがこの曲で、アコースティックなバンドサウンドと徐々に盛り上がってゆくメロディー展開、さらには歌詞も非常にマッチした耳なじみの良さが素晴らしい。アルバムの中でも特に好きな曲です。

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6. victim of nostalgia/mxmtoon

アメリカの宅録系ミュージシャン、アルバム"rising"からの1曲。

ラジオでたまたま流れてきてイントロから聴き入ってしまった印象的な1曲です。

広がりのある優しい音像で、個人的に大好きなサウンドです。

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5. 手のひら重ねれば/竹内アンナ

2ndアルバム"TICKETS"からはリード曲のこの曲を選出しました。

持ち前のポップセンスとギターセンスが遺憾なく発揮されていて、非常に完成度の高い1曲となっています。

洋楽の楽曲を思わせるサビのメロディとコーラスワークが素晴らしい。

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4. N e w M o r n i n g/ROTH BART BARON

映画"マイスモールランド"のサントラより、主題歌として書き下ろされた1曲です。

私は映画館でこの作品を見たのですが、エンドロールで流れるこの曲を映画館でしっかり味わえたのが非常に良かったです。

映画のアフターストーリーと解釈できるMVも最高。歌詞の解像度も変わってくるので映画と合わせておすすめしたい1曲です。

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3. Take A Chance/DOMi & JD BECK, Anderson .Paak

ジャズ界注目の新人がアンダーソン・パークとタッグを組んだ1曲。

ベースをバックにしたラップ調のバースから始まって、優しいサウンドのコーラスにつながり最後には再びテンポアップという展開が非常に印象的です。

怒濤の展開を見せるベースとドラムに注目。

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2. Better Days (Full Length)/Rosie Frater-Taylor

今年日本盤が発売となったデビュー作"Bloom"より。

ジャズの作法に則ったフォークポップといった曲調で、楽曲の中盤で展開されるギターソロが何度聴いても心地よい。

軽快なメロディも耳なじみが良く、春によく聴いていた1曲です。

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1. Part of the Band/The 1975

2022年間ベストソングにはアルバム"Being Funny in a Foreign Language"から先行リリースされたこの曲を選びました。

非常に完成度の高いインディーフォークソングに仕上がっており、サビに入る瞬間にバックの音がストリングスからバンドサウンドに切り替わるのが最高に気持ち良い。

終盤でサックスが入ってくるアレンジも素晴らしい。リリース直後から何度も繰り返し聴いている大好きな1曲です。

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【ディスクレビュー】WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?/Billie Eilish

こんばんは。

今日は洋楽のアルバムを紹介します。

1月のグラミー賞で最優秀アルバムを含む主要四部門をすべて受賞したビリー・アイリッシュのファーストアルバム、WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?(2019年)です。

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さて、グラミー賞を総なめした以外にも昨年の全米年間アルバムチャートで1位を獲得する等名実ともに2019年を代表するこのアルバムですが、そのヒットの要因は一体何なのでしょうか。

 

18歳という若さのためティーンエイジャーからの支持が厚いというのもありますが、最大の要因は、やはり革新的な音楽性でしょう。

ときに恐怖さえ感じるほどの暗さと中毒性を兼ね備えたサウンドプロダクションで停滞気味だったポップミュージックに新たな形態を提示し、聴き手に新鮮な衝撃を与えたのがこの作品だと私は考えています。

 

ではこの暗さと中毒性の共存はどこから来るのか。

その雰囲気を演出するのは、打ち込みのビートとベース、そして囁くようなビリーの歌い方です。特にシングルにもなった「bad guy」や「bury a friend」を聴いていただければなんとなく私の言っていることがわかると思います。

ビリー・アイリッシュの楽曲はその暗さからアンチポップとして位置づけられることも多いですが、私はあくまでポップミュージックの新しい形としての表現だと考えています。まだ聴いたことない方はぜひ聴いてみてください。

 

そして、アルバムを語る上で避けて通れないのが全体的な構成についての話です。

このアルバムには「bad guy」という最高に強烈なキラーチューンがありますが、この曲は2曲目に収録されています。

その前に収録されている1曲目は、「!!!!!!!」というちょっとした台詞と笑い声だけが収録された非常に短い曲(?)が配置されています。つまり、再生開始直後にいきなりキラーチューンが始まるのではなく、ワンクッション置かれることによってアルバムというフォーマットに入り込みやすくなっています。

さらに、「bad guy」はラストで曲調がガラリと変わるのですが、それが次の曲に移行するための緩衝材になっていて、他の収録曲と比べて「bad guy」が浮いた存在になるのを防いでいます。そうすることにより、「!!!!!!!」から徐々に聴き手の高揚感を高め、「bad guy」で早くもクライマックスを作りながらその後の収録曲への気持ちを削がない、素晴らしい導入ができあがります。

 

中盤にピアノの生音を伴奏に歌い上げる「when the party's over」を配置し冒頭からたたみかける衝撃の連続に対して箸休めのような時間を作り出しているのもポイントです。

そしてラストはバラード「i love you」から、ここまでの様々な収録曲の歌い出しの歌詞をフィーチャーした「goodbye」に繋いできれいに締めくくります。

 

日本でも話題のアルバムです。この機会にぜひ聴いてみてください。

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【ディスクレビュー】燦々/カネコアヤノ

こんにちは。

今日のディスクレビューで取り上げるのはこちら。

2019年発表、カネコアヤノの最新アルバム、燦々です。

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なんだかふてぶてしい猫ジャケが印象的なこちらの1枚。

この作品を一言で表すと、『円熟』です。

歌声、歌詞、アレンジ、音像、それらすべての完成度が過去作と比べても非常に高い作品で、聴けば聴くほどに深みを増してゆくのがこのアルバムの魅力です。

特にアレンジが全体的に秀逸で、コードとリズム以外にいろいろな音が加えられているにも関わらずボーカルが引き立てられていて、聴き手にカネコアヤノのまっすぐな歌声と歌詞を効果的に伝えています。

 

また、このアルバムの仕掛けの1つとして、『サビで3拍子系に展開する曲が多い』点があります。

アルバム全12曲中3曲(「ごめんね」「ぼくら花束みたいに寄り添って」「愛のままを」)がこの展開をとっていて、なんとなく聴いていてもハッとさせられ、より深く聴き込んでしまうのです。

 

さらに、アルバムの構成に目を向けると、シングル等の先行曲がすべて後半に配置されていることに気付きます。

この後半の既出曲ラッシュが聴き手の高揚感を煽り(特に「セゾン」から「光の方へ」へのつなぎは最高)、ラストの3拍子曲「燦々」で締めくくる。思い切った配置ですが素晴らしい構成だと思います。

 

そして「燦々」を聴き終わったらもう一度1曲目の「花ひらくまで」に戻って再生したくなる。そうやって聴き込んでいるとだんだん深みにはまってしまうのがこのアルバムです。

ぜひ一度聴いてみてください。そして、深みにはまってみてください。

Sansan

Sansan

  • カネコアヤノ
  • J-Pop
  • ¥2241

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【ディスクレビュー】CEREMONY/King Gnu

こんばんは。皆さんいかがお過ごしでしょうか。

私は時間が余って仕方ないので、今日から1日1枚ペースでディスクレビューを書いていきたいと思います。

 

記念すべき第一回で取り上げるのはこちら。

King Gnuのセカンドアルバム、CEREMONY(2020年)です。

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さて、私はアルバムというフォーマットの魅力として、「楽曲を順番に再生することによって生じる相乗効果」があると考えています。

アルバムとして流れで聴くことによって、個々の楽曲を別々に聴く以上の良さが生まれます。今回紹介する作品は、その良い例です。

King Gnuは前作「Sympa」の翌月から矢継ぎ早にシングルをリリースし、昨年末には紅白歌合戦に出演するまでにブレイクを果たしましたが、個人的にはこれらのシングル群に正直あまり魅力を感じていませんでした。

しかし、アルバムという形で収録されることによって、それらの楽曲の真価が発揮されています。シングルとして単曲で出てきたときは何だこれ、という感じだった「白日」も「飛行艇」も、アルバムの流れで聴くと高揚感をもって聴き手に迫ってきます。

 

このアルバムの一番の魅力は、そんな高揚感にあります。

これでもかと楽曲をたたきつけてくる構成、それに対して聴き手は「次はどんな曲が来るんだろう」というワクワク感を抱く。そういったエンターテイメント性はここ数年に発表されたアルバムの中でも最高級です。

そのワクワク感の中で先行曲が適所に配置されていて、最後まで高揚感を切らせることなく聴くことができます。

 

このアルバムの魅力を成り立たせる要因として、次の2つがあると私は考えます。

 

1.個々の楽曲のクオリティが高いのにキラーチューンがない

 ヘッドホンで聴けばわかると思うのですが、とにかく音の作りが深い。メインメンバーが藝大出身ということもあり、細部のアレンジのクオリティがめちゃくちゃ高いです。これが最後まで飽きずに、新鮮な気持ちを保って聴ける要因の1つだと思っています。さらに、このアルバムには所謂キラーチューンがない。突出して悪目立ちする曲がなく、アルバム全体のバランスが保たれているわけです。シングル曲だった「白日」も他の収録曲にスッとなじんでいます。「白日」を聞き終わってもそこで再生を止めずに次の曲に進みたくなる。これも大きな要因です。

 

2.アルバムの構成

 もう1つはアルバムの楽曲構成です。いくら個々の楽曲が良くても構成がぐちゃぐちゃでは駄盤に成り下がってしまいます。このアルバムには1曲目とラスト、そして本編の真ん中にそれぞれ「開会式」「閉会式」「幕間」というインスト曲を配置されており、この3曲が全体の大きな流れを決めています。「開会式」から「幕間」までの前半にはイントロのない曲を配置することでアルバムが始まってからの高揚感を失わずに次の曲に入り込めるような演出がなされており、「幕間」を挟んだ後半ではイントロのある曲で少しクールダウンし、本編ラストのバラード「壇上」にすべてを収束させる。非常によく考えられた構成が、このアルバムを最高級のエンターテイメントに仕立て上げているのです。

 

いろいろ書きましたが、何言ってるかわからない人もいると思うのでとりあえず聴いてみてください。

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雨の日と月曜日は

昨今、音楽界における歌詞のトレンドは「共感」である。
西野カナはアンケートでティーンエイジャーの意見を聞いて歌詞を書いているというし、いわゆるJ-POPや邦ロックはいかに歌詞に共感できるかというのが一つの重要なポイントになっている。

私はどちらかというと洋楽の方がよく聴くのでそこまで歌詞を重視していないし、それ故に共感することもあまりない。
あったとしてもそれはフレーズ単位での話である。さすがに歌詞すべてを聴きながら理解しさらに共感するまでの英語力は私にはない。

そんな私がいちばん共感できる歌詞が、タイトルにもあるカーペンターズの「雨の日と日曜日は」(原題:Rainy Days and Mondays)の“Rainy days and Mondays always get me down”というフレーズである。

だってあれだよ。「雨の日と月曜日はいつも私を落ち込ませる」だよ。この世の真理。

私は雨の日も月曜日も大嫌いなのである。
月曜に雨が降ってたりするともうこの世の終わりなんじゃないかって感じで。
月曜日の授業はいつも出席回数が少ない。

だったら日曜の夜中にブログなんて書かずに早く寝ろって話なんですが、明日は1限が休講なんです。わっしょい。
なので普段の日曜夜と比べてちょっとテンションが高いです。

閑話休題
月曜日は確かに得意ではないが、まだなんとかなる。
定期的にやってくるものなので、7日に1度ちょっと気合いを入れればなんとか乗り越えられるのである。

問題は雨の日だ。
これはいつ来るかわからない、本当に腹立たしい代物である。
文字通り嵐のようにやって来ては人のやる気を削いでゆく。

朝起きたら雨、家を出たら雨、仕事中に外を見たら雨。
本当にモチベーションが下がるのでなんとかしてほしい。
何故雨の日はやる気が出ないのか、原因と対策がわかる人は私に教えてください。


さて、雨のイメージが強い6月がようやく終わった。
文月は休講の楽しい気分のまま迎えたいので、どうか雨は降らないでほしい。

ついてない男

2019年6月23日21:15 長野県大桑村
道の駅で一人の男が何かを待っている。
彼はなぜそんな時間にそんなところにいるのだろうか。

そもそもの発端は3年前に遡る。
2016年、彼が大学一年生だった時の話である。
彼は自信過剰で不真面目な人間であった。
多少サボっても試験さえなんとかすれば授業の単位はもらえるものだと思っていた。
実際ほとんどの授業の単位は取得できたが、ただ一つ、英語だけは単位を落としてしまった。
これがすべての元凶である。

おとなしく再履修でもすれば良かった話なのだが、彼は面倒くさがりな上に妙なところでプライドの高い人間だった。
その英語の授業はTOEICで所定の点数を取れば単位が認定されるものだったので、彼は面倒な再履修を拒み、TOEICでの一発逆転に賭けることにした。

彼はその後何度かTOEICを受験した。
しかし、惜しいところまでは行くものの単位認定の基準を超えられないまま時が過ぎていった。

気づけば彼は四年生になっていた。
さすがにそろそろ単位を回収しなければまずい。
これでTOEICは最後だ、これで失敗したら負けを認めて再履修しよう、と心に決めて6月開催の試験に申し込んだ。
この回は彼の住む長野県での開催はなかったので、仕方なく隣の岐阜県の会場で受験することにした。

そして迎えた試験日が、6月23日である。
予想以上にテストの手応えが良かったので、彼は上機嫌だった。
鼻歌なんかを歌いながら国道19号を走り、家まであと1時間ちょっとというところまで来た。
さて、ちょっと休憩でもしようかな、なんて言いながら道の駅に入ろうとしたところで、車に異変が起こった。

メーターの警告灯が点灯し、エンジンの調子がおかしくなったのである。
慌てて道の駅の駐車場に停めると、エンジンが完全にかからなくなってしまった。

このままでは帰れない。仕方ないので彼はJAFに救援を頼んだ。
だが、現場はど田舎である。到着までに50分ほどかかると言われ、これも仕方ないので待つことにした。
ここでようやく冒頭の場面に至る。

結局JAFが到着したのが22時過ぎ。
バッテリーをちょっといじってもらい、エンジンはかかるようになった。
これでようやく帰れる、と思っていたが、しばらく様子を見ていた整備士が異変に気付いた。
どうも発電機の調子がおかしく、バッテリーの充電が追いつかないらしい。このまま無理して走っても途中でまた止まる可能性が非常に高いという。

愛車はレッカーで運ばれ、岐阜との県境にある工場で修理することになった。
代車を渡され、再出発。この時点で既に23時を回っていた。

本来なら22時には帰宅できていたはずなのに、なんて思いながら慣れない普通車に乗り込むと、タイミング悪く雨が降り出した。
彼は自分がついてない男のように思えて、悲しくなった。
テスト直後に温泉に入りながら上機嫌だった自分が嘘のようである。

降りしきる雨と疲労の中、慣れない車を運転してなんとか家にたどり着いた時には時計の針は1時を指していた。
疲れ果てたのでそのまま車で寝ようとすると、何かの安全装置が反応してけたたましい警告音が鳴り響いた。
車中泊すら許されないのか、と思いつつ雨の中家まで歩き、眠りについた。

目が覚めると、1限の授業は既に終わっていた。かなり疲れていたので無理もないが、これで5回目の欠席である。
体調不良などに備えて温存しておいた最後の1回を使ってしまった。

今の気分は最悪である。
自分が本当についていない人間のように思えてならない。

しかし、こうして書き出してみるとこの状況に至ったのには自分にも少なからず責任があるのではないかと気づいた。
余計な意地を張らずにおとなしく再履修していれば岐阜なんかに行くこともなかったし、岐阜に行かなければこのタイミングで車が故障することも無かった。

教訓。問題が生じたら早いうちに手を打つべきだ。ギリギリでなんとかしようとすると、思わぬところで別の問題が起こってしまうものである。