少年の日の思い出

人生を変えた一曲、というのは誰にでもあるだろう。
人生を変えたというのは少し大げさかもしれないが、ものの考え方や思想に何かしらの影響を与えた音楽があると思う。
それは未知との遭遇かもしれないし、歌詞を深くまで読み込んだ結果かもしれないが、とにかく、音楽を聴く人間には何かそういった類いの曲があるのだ。
私の場合、いろいろあるが一番はこの曲だ。


1991年、ニルヴァーナによって発表された不朽の名曲、“Smells Like Teen Spirit”である。
曲名は知らずとも、この曲を耳にしたことのある人は多いのではないだろうか。
それまでの派手な80年代ハードロックを覆すかのごとき荒削りなシンプルさで「グランジ」と呼ばれるジャンルを確立した記念碑的作品である。

さて、そんな“Smells Like Teen Spirit”であるが、私がこの曲をはじめて聴いたのは(記憶が定かではないが)14歳の頃である。
当時の私は、まだ音楽というものにのめり込みはじめた頃だった。ラジオから流れる音楽に耳を傾けながらいわゆる邦ロックを中心に聴いていた。
今の私を知る人からしたら驚きかもしれないが、当時の私はONE OK ROCKRADWIMPSなどのアルバムを近所のツタヤで借りてきては聴き込んでいた。

そんなある日、いつものようにラジオを聴いていると、“Smells Like”がかかった。
イントロを聴いた瞬間、稲妻に打ち抜かれたかのような衝撃が頭の中に走った。何かから解放されたかのような感覚を得た。
大げさではなく、当時の私は本当にそう感じたのだ。
何も凝ったことはしていないのに他の曲にはない膨大なエネルギーのような何かをこの曲は持っている。
その期待は、一曲を通して聴いても裏切られることはなかった。

このバンドには何か特別な技術があるわけではない。サウンドだって荒削りで、あまり凝っているようには思えない。
しかし、音楽にかける情熱、気迫、勢い、力強さ、そしてそれらから来るパワーに、当時の私は打ちのめされた。
邦ロックばかり聴いていた中学生には、その刺激は強すぎた。

それからしばらくの間は、狂ったようにこの曲を聴き続けた。携帯なんてもっていなかったから、親のいないときにパソコンで勝手にユーチューブを開いてこのビデオを見ていた。
ツタヤで借りてくるなんてことはできなかった。当時の私には刺激が強すぎて、聴いてはいけないもののように思われたのだ。

そして、バンドについても詳しく調べた。すると、この曲の作者でありバンドのボーカルのカート・コバーンが27歳で自殺していたという事実を知ることになった。これまた衝撃的だったことはいうまでもない。
この男は本物のロックスターだ、と思った。ロックスターの模範的な生き方だ、と思った。
私はそれに憧れた。正確に言えば、今でも憧れている。

以後は皆様の知るとおりである。
たまにブログに思想を吐き出しているが、それらの元をたどるとこの曲とカートの生き様が大きく影響している。
タイトルの解釈が違おうが何だろうが、私にとっては10代を象徴するアンセムなのだ。

ロックスター、というのは生き方である。ロックをやっているスターが全員ロックスターなのではない。
世の中に何か大きな衝撃を与えて去ってゆく、そんな生き方がロックスターなのである。
そして私は、それに対して未だに憧れを抱いている。
つまり私はそんなやつなのだ。